猫の5つのフェロモンを詳しく紹介
和猫研究所所長の岩崎永治さんが、猫のフェロモンについて詳しく解説されていましたのでご紹介します。
【フェロモンとは?】
近年、フェロモンの研究が進み、猫様の問題行動に用いられるようになってきました。フェロモンとは具体的にはどんなものでしょう?
フェロモンの特徴を簡単に4つにまとめてみました。
- 特定の情報を他の個体に伝達する物質
- 同じ動物種だけが反応する
- フレーメン反応により、上顎と鼻腔の間にある鋤鼻器でフェロモンを検知する
- 誘発される行動は反射に近く、特定の行動が無意識に引き起こされる
フェロモンとは動物の体から放出される化学物質のことで、特定の情報を同種の別の個体に伝達するための物質です。猫はフレーメン反応※と呼ばれる行動により、浅い呼吸と共に上唇を開け、鋤鼻器に空気を通すことでフェロモンを感じることができます。猫が臭いものを嗅いだ時、こちらを向きながらしかめっ面をする、あの変な顔です。
(※フレーメン反応:匂いを嗅いだ後の生理現象の1つで、ぽかーんと口を開けて一定時間止まる状態)
基本的にフェロモンは同じ動物にしか作用はありません。動物種ごとに作り出されるフェロモン複合体が異なるため違う種には反応しないようになっています。
フェロモンによって引き起こされる行動は意識による自発的な行動ではなく、むしろ反射反応のような無意識の行動に近いかもしれません。
つまり、違う行動をとりたくても、体が勝手に動いてしまうようなもの。そのため、引き起こされる行動は常に同じで、誘発される行動を予測することができます。
たとえ猫様がストレスにより問題行動を起こし、猫様自身や同居のご家族がお互いに苦痛を感じてしまう環境になったとしても、フェロモンを使うことで猫様の苦痛を和らげ、好ましい行動に導いてあげることも可能になってきました。
猫様の分泌物から、いくつかのフェロモンが特定されています。そのうちのいくつかはコミュニケーションに関連することがわかっており、ストレスの多い状況を改善することに役立つことが報告されてきました。次項では、猫のフェロモンの作用について詳しく解説していきましょう。
【猫様の4つのフェロモン】
現在、作用が認められ、利用が可能となっているフェロモンは以下の4つあります。それぞれ詳しく紹介していきましょう。
- 顔面フェロモンF3
- 顔面フェロモンF4
- 乳房フェロモン
- 指間フェロモン
① 顔面フェロモンF3
- 作用:猫の気持ちを落ち着かせ、穏やかにする
- 利用方法:尿スプレーの減少(性的、非性的の両方)、入院中の食欲改善、輸送ストレス減少、特定の場所への爪とぎ抑制
猫の顔から分泌されるF3は、猫がリラックスしたときに分泌されるフェロモンで、猫が家庭内の突出した物体に猫が顔をこすりつけて、自分の安心できる環境を作っていきます。このフェロモンを感じ取ることで、猫の意識に関係なく猫の気持ちを落ち着かせ、穏やかにする作用があります。
逆に、このフェロモンを感じない場所には不安を抱き、警戒心を高めるようです。
玄関や窓など不適切な場所での尿スプレーでお困りの方は非常に多いと思います。顔面フェロモンF3は化学的に合成することが可能となっており、合成F3を噴霧することで発情による性的あるいは不安症から生じる尿スプレーなどを減少させる作用が報告されています。ある報告では、症例の70%も改善作用が認められたそうです。再発率も低く、投与した10か月後でも77%が尿スプレーを抑制できたようです。そのうえ、ほとんどの場合、再発防止のために必要であった綿密な洗浄や行動療法は必要ないようです。単純にこのフェロモンを吹きかけるだけなので、非常に楽!
ただし、家庭内で猫同士の不和が原因となっている場合には作用が薄いようです。その場合、攻撃性など原因となっている行動の治療や、尿スプレーをするねこ様の不安症の改善を優先する必要があります。
そのほか、入院した猫様の食欲も改善や病院への輸送ストレスの軽減、さらに外科手術時の麻酔量の減少作用も報告されています。さらに、ストレスが原因とされる特発性膀胱炎にも有用である可能性が示唆されています。
また、合成F3を吹きかけた場所への爪とぎを抑制する傾向があるようです。
② 顔面フェロモンF4
- 作用:見知らぬ他人への警戒心を解き、攻撃性を低下させる
- 利用方法:先住猫と新入猫同士の攻撃性の低下、同居家族や動物病院での警戒心の緩和
もう一つの猫の顔面フェロモンF4は見知らぬ猫や人への警戒心を解く作用が期待されます。こちらも化学的に合成することが可能となっており、特にお勧めしたいのは保護猫活動をなされている方々!シェルターに保護されたときや里親となった場合の先住猫や家族との良好な関係を築くことに有用だと考えられています。
動物病院で扱えば、初めて来院したときでも獣医師や動物看護師との良好な関係を築くことに役立ち、攻撃リスクを減らすことが期待されます。
ただし、注意すべき点が一つ。いくつかのケースでは、治療後に攻撃性が増したという報告がなされています。このようなケースでは、既に攻撃を受けていて、避けられる傾向にあった猫に対し攻撃が生じていました。
おそらく、視覚的な嫌悪と親和的なフェロモンの間で混乱し、攻撃行動に移ったのかもしれません。
したがって、単純に攻撃行動を減少させるためにF4を扱う際には慎重な評価が必要です。
すでに関係性が固まってしまったねこ間で使うよりも、初対面のケースでの使用が推奨されています。
③ 乳房フェロモン
- 作用:グループ間の安全性と社会的調和の維持
- 利用方法:猫同士や人との関係性修復、動物病院関係者との関係構築
子猫が生まれた直後に乳房から分泌されるフェロモンで、母親と新生児の関係性を高める化合物です。猫は単独で生活していると思われがちですが、食べ物が豊富な環境では母系の群れを形成する事が知られています。このフェロモンは群れの中の安全性と社会的関係性を維持する役割があるようです。
猫は他の哺乳類と比較し、社会的な関係性を修復する能力が欠けています。そのため、群れの中では関係性をこじらせることもよくあります。そのような場合、乳房フェロモンは猫同士の関係性修復に役立ち、他の猫と共存しやすくなるのです。
このフェロモンも化学合成することができるようになりました。顔面フェロモンF4と同様に猫同士の攻撃行動を減少させるため、保護猫活動など、シェルターに保護されたときや里親となった場合の先住猫や家族との良好な関係を築く手助けになることが期待されています。動物病院でも同様に、獣医師や動物看護師との良好な関係を築くことに役立ち、ハンドリングでの攻撃リスクを減らすことが期待されます。
④ 指間フェロモン
- 作用:マーキング
- 利用方法:爪とぎ場への誘導
爪とぎは猫様にとって自然な行動です。いつでも武器として扱うためのお手入れの他、マーキングとしての役割もあると考えられています。
その時に用いられるシグナルが、指の間から分泌されるフェロモンです。こちらも化学合成できるようになりました。
この合成フェロモンは爪とぎ場を変更させるのに役立ちます。例えば、爪とぎをさせたい場所にこのフェロモンを吹き付けることで、猫様に爪とぎをしてもよい場所であることを伝えることができるのです。さらに、爪とぎ抑制作用が期待されるF3を好ましくない爪とぎ場に吹きかけることで、猫の爪とぎ場を好ましい場所への誘導作用が高まる可能性もあります。
著書紹介:岩崎永治 猫好きな博士(獣医学)
日本獣医生命科学大学にて猫の栄養学を専攻する傍ら、野生生物研究会に所属し、行動観察や解剖学など見聞を広げる。
現在は日本ペットフード株式会社 研究学術課に所属し、同大学研究生を経て博士号を取得。Twitter〈和猫研究所〉を通じて、猫の伝承や栄養学の情報発信を行っている。著書に「猫はなぜごはんに飽きるのか」(2023年、ホーム社)、「和猫のあしあと」(2020年、緑書房)。
【参考文献】
- Hargrave, Claire. "Pheromones and 25 years of pheromonotherapy: what are they and how do they work?." The Veterinary Nurse 12.3 (2021): 116-122.
- Mills, Daniel. "Pheromonatherapy: theory and applications." In Practice 27.7 (2005): 368-373.
- Argüelles Baquero, Juan Carlos, et al. "The impact of a stress-reducing protocol on the quality of pre-anaesthesia in cats." (2021).
- Pereira, Joana Soares, et al. "Improving the feline veterinary consultation: the usefulness of FELIWAY spray in reducing cats’ stress." Journal of Feline Medicine and Surgery 18.12 (2016): 959-964.
- DePorter, Theresa L., et al. "Evaluation of the efficacy of an appeasing pheromone diffuser product vs placebo for management of feline aggression in multi-cat households: a pilot study." Journal of feline medicine and surgery 21.4 (2019): 293-305.
- Pageat, Patrick, and Emmanuel Gaultier. "Current research in canine and feline pheromones." Veterinary Clinics: Small Animal Practice 33.2 (2003): 187-211.
- Mills, D. S., and J. C. White. "Long-term follow up of the effect of a pheromone therapy on feline spraying behaviour." Veterinary Record 147.26 (2000): 746-747.
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